多能性幹細胞から尿管組織を作ることに成功~移植可能な腎臓オルガノイドへの応用に期待~

【ポイント】

  • 多能性幹細胞*1から尿管間質の前駆細胞への誘導法を確立した。
  • 誘導した尿管間質の前駆細胞を尿管上皮の前駆細胞と組み合わせることで尿管オルガノイド*2の作成に成功した。
  • 作成した尿管オルガノイドは尿管疾患の病態解明や移植可能な腎臓オルガノイド作成への応用が期待される。
      【概要説明】

    尿管*3は腎臓で生成された尿の出口を構成し、腎臓が機能を果たすために必須の臓器です。尿管は上皮とそれを取り囲む間質で構成されており、これらの前駆細胞が相互作用を繰り返し発生します。この2つの構成組織のうち尿管上皮の前駆細胞(尿管芽)を多能性幹細胞(マウスES細胞*4やヒトiPS細胞*5 )から人為的に誘導する方法は熊本大学発生医学研究所の西中村隆一教授の研究グループをはじめ複数報告されていましたが、尿管間質の前駆細胞を誘導する方法は世界的に見ても確立されていませんでした。今回同グループの大学院生伊比裕太郎さんらは、この尿管間質の前駆細胞を多能性幹細胞から誘導する方法を開発しました。さらに誘導した尿管間質前駆細胞を、マウス胎仔由来の尿管上皮や多能性幹細胞から誘導した尿管芽と組み合わせることで、人工的に尿管組織 (尿管オルガノイド) を再構成することに成功しました。
    本研究は、尿管という腎臓からの尿排泄に必須となる構造を試験管内で多能性幹細胞から構築することに成功した初めての報告です。この技術を腎臓オルガノイドと組み合わせれば、尿が作られて出ていくという臓器本来の機能を持った移植用の腎臓を作るという次世代の再生医療に向け大きな前進となります。また、尿管疾患の病態解明と創薬開発に繋がることも期待されます。
    本研究成果は、科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に6月20日 午前10時(イギリス時間)【日本時間の6月20日 午後6時】に掲載されます。
    ※本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究( S ) 、国際先導研究「腎臓を創る」)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR2266)の支援を受けました。

    [用語解説]

    *1 多能性幹細胞:様々な体細胞に分化し得る万能細胞。

    *2 オルガノイド:試験管内で作られる、臓器のミニチュア版。

    *3 尿管:腎臓で産生される尿を体外に排泄するために必要な構造。管状の構造をしており、内側に位置する上皮とそれを取り囲む間質で構成される。

    *4 ES 細胞:受精卵から作られた多能性幹細胞。胚性幹細胞。

    *5 iPS 細胞:皮膚や血液などの体細胞から作られた多能性幹細胞。
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    【論文情報】

    ?論文名:In vitro generation of a ureteral organoid from pluripotent stem cells
    ?著者: Yutaro Ibi, Koichiro Miike, Tomoko Ohmori, Chen-Leng Cai, ShunsukeTanigawa, Ryuichi Nishinakamura
    ?掲載誌:Nature Communications
    ?doi:10.1038/s41467-025-60693-6
    ?URL:http://www.nature.com/ncomms

    【詳細】 プレスリリース(PDF420KB)

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    熊本大学発生医学研究所
    担当:教授 西中村 隆一
    電話:096-373-6615
    e-mail:ryuichikumamoto-u.ac.jp
    (※を@に置き換えてください)